ワタミ次期社長、ブラック批判に答える

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20150128/276813/

2期連続の赤字を見込むワタミで、3月に社長が交代する。労働環境の悪化で“ブラック企業”との批判を受ける同社の業績をいかに回復させるか。アルバイトとして入社し、役員となった清水邦晃・次期社長に聞いた。

ワタミをどのような会社にしていくのか。

清水邦晃(しみず・くにあき)
ワタミの居酒屋チェーンにアルバイトとして入社。介護事業を立ち上げ、2009年、事業会社「ワタミの介護」社長に就任。2014年10月、ワタミフードサービス社長に。44歳。(写真:竹井俊晴)

清水:ワタミは居酒屋を原点とする、「食」中心の会社だ。そこに戻る。

 マーケットに合ったメニューを提案するなどして、(主力である)「和民」「わたみん家」をはじめとする居酒屋業態を強化する。それぞれの店舗を、お客さまに楽しんでいただける場に作り直す。そのために必要な環境を整える。楽しめる場を目指す挑戦は、介護事業の強化にもつながる。

原点回帰のために何をする。

清水:まずは今春、グランドメニューを改編する。それぞれの料理の分量を減らして単価を下げる。

 昨年は、いわゆる小料理屋に匹敵するような(高級)路線に舵を切り、料理の品質を向上させたり分量を増やしたりして、単価を上げた。それがお客様に受け入れられなかった。「色々な料理を頼むには、それぞれの料理の量が多すぎる」「高すぎる」などのご意見をいただいた。

 実は昨年のメニュー改編は、40代ぐらいの客層をターゲットに考えていたのだが、お客様の6割は20〜30代が占めている。我々のような総合居酒屋は、グループで訪れたお客様が色々な料理を注文できるところに楽しさがある。その要望に応えられていなかったのだと思う。

 そこで、メニューブックも、大きく広げて読める作りに変える予定だ。小さいことだが、一つひとつ丁寧に取り組んでいきたい。

 社内では、それぞれの地域に合ったメニューを地域ごとに本部に提案できる体制を築く。「九州全域」など全国に9つあるブロック単位で、「和民」などの業態ごとに配置していた管理職を統合し、業態の垣根を越えて、それぞれのブロックに最適なメニューを考えられるようにする。

客数は前年実績を割り続けている。「昔は和民によく行ったけど、今は行かない」という顧客に、もう一度来てもらうための施策は。

清水:お客様の年代や利用動機に合った業態を提案していくべきだと思っている。「和民」「わたみん家」は主に20〜30代のお客様向け。チェーンの良さを前面に打ち出して喜んでもらえる店を目指す。「そういう店は飽きた、もういいよ」というお客様には、「銀政」や「炭旬」といった個店の良さを表現した業態をお薦めしていく。中華やイタリアンを食べたいという方には「WANG'S GARDEN」や「GOHAN」がある。あらゆる利用動機に応えられるように、会社として今後も業態をととのえていく。

国内事業会社4社のうち3社を統合する狙いは。

清水:ワタミには、国内外食と宅食、食材製造卸、介護の4つの事業会社がある。最初の3つは「食」と密接に関連する事業だ。これらを統合することで、競合に勝つ商品開発を進める。固定費の削減など経営の効率化も図る。

 昨年10月に事業会社4社の社長を入れ替えた。事業会社の縦割りを克服し、事業間の相乗効果を出すための措置だった。事業会社の統合は当時から桑原豊・現社長が考えていた構想で、相乗効果をさらに進める狙いだ。

社長にはいつ指名されたのか。

清水:昨秋に、桑原氏から話があった。第2四半期の決算がまとまり、2期連続の通期赤字が見込まれることが分かったため、桑原氏が「業績悪化の責任を取って代表権を返上したい」との意向を役員に示された。

 社会から厳しい目で見られ、業績が悪化して、現場も疲弊している。こうした問題の解決を、現場の従業員の思いが分かるプロパーの若い人材に託したい、と話された。

ブラック企業」との批判がある。

清水:批判は真摯に受け止める。スタッフからは、社会からの批判に心が折れてしまいそうになると聞いている。お客様や入居者様の喜ぶ顔が見たい、とか、「居酒屋が好き」と、まっすぐな気持ちで働いているスタッフの思いに応えたい。労働集約型の仕事は、これまで働く人の頑張りに頼ってきた部分が大きい。これを改め、スタッフが元気に働けて、休みもきちんと取れる環境を作ることが経営の責任だ。既に取り組みを進めている。

どのように改善するのか。

清水:100以上の店舗で営業時間を短縮した。さらに2月中旬からは全店の3分の2に当たるおよそ300店で、定休日を設定する。各店の社員数も適正に増員する。グランドメニューの改編では、品目数を1〜2割程度減らし、現場の負荷軽減につなげる。

ハードワークに慣れたワタミのプロパーである清水さんに、就労環境の改革は難しいのでは。

清水:私の働き方は違う。

 10年近く携わった介護事業で多くのことを学ばせていただいた。マネジメントを学ぶこともできた。介護の現場は、スタッフ個人の専門性を尊重しながらチームで働くことを重んじる。ここで、個を生かすことの重要性に気づいた。

 社内を見わたせば「料理を作るのが好き」「接客が好き」「メニューを考えるのが好き」などと、皆ちがった希望と長所がある。会社に貢献できることが違う。こうした社員の専門性を重視する給与制度を、4月に導入するための準備を今行っているところだ。