ベトナム人被告はなぜヤギを食べた 「過酷な生活」証言

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ベトナム人被告はなぜヤギを食べた 「過酷な生活」証言

小林孝也

2015年2月19日22時59分


 岐阜県美濃加茂市で昨年8月、除草用に飼われていたヤギを盗み、食べたとして、窃盗罪に問われたベトナム人の被告は、技能実習生として来日していた。岐阜地裁の公判で、日本での過酷な生活について証言した男たち。なぜここまで追い詰められたのか――。

 起訴状によると、いずれもベトナム国籍のブイ・バン・ビ(22)、レ・テ・ロック(30)の両被告は仲間5人と共謀し、昨年8月9〜10日、美濃加茂市の公園でヤギ2頭(時価計約7万円)を盗んだとされる。除草効果を研究するため、岐阜大学教授が市などと協力して飼っていた16頭の「ヤギさん除草隊」のうちの2頭だった。

 法廷での証言などによると、ロック被告は来日前、ベトナムの田舎町でタクシーの運転手をしていた。両親と妻、娘の家族5人暮らしで、月給は日本円で1万6千円ほど。暮らしは貧しかったという。

 「日本で働けば月給20万から30万円。1日8時間、週5日勤務で土日は休み。寮あり」。こんな話を仲介会社から聞き、「思いつかないほど素晴らしい」と飛びつき、来日を決めた。仲介会社には自宅と土地を担保にして銀行から借金した約150万円を支払い、2013年3月に農業の技能実習生として来日した。

 長野県の農業会社でトマトを育てる仕事に就いたが、勤務条件は聞かされていたものとはかけ離れていた。毎日午前6時から翌午前2時まで働き、休みはない。午後5時までは時給750円、以降は1袋1円の出来高払いでトマトの袋詰めをした。1千袋詰めた日もあったという。

 用意された「寮」は、農機具の保管場所。シャワーはあったがトイレはなく、電源盤の下の約2平方メートルで寝た。「家賃」として月額2万円が給料から天引きされ、手元には6万円程度しか残らなかった。それでも可能な限りの3万〜4万円を母国に仕送りした。

 家と職場を往復するだけの日々。7カ月にわたって我慢したが、「頑張ったが、疲れてしまい、逃げ出した」。インターネットの情報を頼りに、愛知県日進市の土木会社で仕事を見つけた。しかし、在留期限が切れた14年3月に解雇され、無職になった。

 「借金を残したままベトナムに帰れば担保にしている自宅などが奪われてしまう」。家族にも打ち明けられず、スーパーで弁当などの万引きを繰り返した。

 同7月ごろからは、ビ被告と同県春日井市のアパートで一緒に暮らすようになった。ビ被告も無職。約200万円の借金をして短期大学に通うため来日したが、学費が払えずに退学していた。

 8月上旬、ベトナム人の仲間約20人で、誕生日パーティーを開いた際、ヤギを盗む計画が持ち上がった。居合わせた7人が車で公園に向かった。ロック被告が運転し、ビ被告は実行役で、2頭のヤギを捕まえて首輪を外し、粘着テープで口や脚を縛った。ベトナムではヤギ鍋などは庶民の味で、すぐに解体して食べたという。

 2人は別の窃盗事件と出入国管理及び難民認定法違反の罪にも問われている。検察側は今月12日、懲役2年を求刑し、弁護側は最終弁論で執行猶予付きの判決を求めた。判決は27日に言い渡される予定だ。(小林孝也)

■レ・テ・ロック被告が提出した謝罪文(抜粋)

 悪いことをしたことは自分でもよくわかっています。言い訳ではないですが、私の話を聞いてください。一生懸命働いてお金をためてベトナムの家族に送るために日本に来ました。生活が苦しいので、日本で働きたい。そのために家を担保に借金をして日本に来ました。7カ月頑張りました。もう力が無く疲れてしまい、会社を逃げ出しました。お金が無くなってきて、日本語も下手、誰も助けてくれない。ベトナムに帰ろうと思ったが、借りた150万円を返していない。今帰ったら家族が困る。日本にいれば仕事が見つかるかもしれない。でも、おなかがすいた。スーパーで初めてごはんを万引きしました。命を守るため万引きしました。本当に申し訳ありませんでした。

     ◇

 〈外国人技能実習制度〉 日本で技術を学び、母国で役立ててもらうのが狙いで、1993年に始まった。実習生には労働基準法が適用され、期間は最長3年。仕事が単純作業ではないことを条件に、職種は繊維や食品製造、農漁業など69職種に上り、中国やベトナム、フィリピンなどからの15万人以上が働いている。送り出し国の団体が実習生らから取り立てる高額な「保証金」のほか、残業代の未払いや長時間労働などの違反も問題になっている。今後は人手不足が深刻な介護分野でも受け入れ、期間を5年に延長することなどが検討されている。